デンマーク法務省報告「漫画やアニメと児童性犯罪の因果関係は無い」

2012年7月23日、デンマーク法務省は「漫画やアニメなどの架空児童ポルノと、児童性犯罪の間に因果関係が無い」事を、調査結果として発表した。
デンマークにおけるに関する研究報告について、経緯と報告書の結論を簡潔にまとめると以下の通りになる。

1.2010年6月、デンマーク法務省が自国の性科学クリニック(Sexologisk Klinik)に対して、架空児童ポルノの所持等が、人々を児童性的虐待行為へと導く可能性があるかどうかを明らかにするように要求した。
2.2010年9月、性科学クリニックは同業の機関や海外の専門家にコンタクトを取り、広範囲にわたる文献検索も行った結果、架空児童ポルノの所持が、児童性的虐待の実行につながるとする証拠は現在のところ存在しないと結論づけた。
3.性科学クリニックは、架空の児童ポルノの流通と所持の禁止を延長する事は困難と考えられる、と結論した。
4.2012年、デンマーク議会は、この調査結果を根拠として架空の児童ポルノは違法なものでは無い、と結論した。
5.コペンハーゲンポスト紙がこの件について報じ、世界が知るところとなった。記事のURLコペンハーゲンポスト紙の記事は現在は読めないが、nyhederne.tv2で読める)


上記研究の報告書の日本語訳が以下のものである。

5.2. 児童ポルノアニメ

児童ポルノ流通の犯罪化から後の所持の犯罪化については、当初から現在まで、流通及び所持には流通所持されている児童ポルノの製作時に児童が必然的に性的虐待を受けてしまうという事実が特に動機となってきた。
流通及び所持の犯罪化を通じ、児童ポルノの製作時に発生する児童への性的虐待行為の要因を減らす等の方法により、児童ポルノ素材の需要の抑制をねらう事がこの目的である。
児童ポルノの流通が児童性的虐待の拡大に影響を与えるかどうかに関する児童ポルノ犯罪化についての議論では、1980年の最初の犯罪化から現在に至るまで、常に2つの反対意見が存在してきた。

一つめの見解では、児童ポルノの流通自体が実際の児童に対する性的虐待を促していると言われている。この見解によると、児童ポルノの流通自体が児童性的虐待に寄与してきたとされている(児童ポルノの製作とは無関係)。
別の見解によれば、児童に性的魅力を感じる人々や実際に児童に暴行する可能性のある人々は、児童ポルノを使用する事をいくらかの性的嗜好のはけ口としており、これにより全体的な児童に対する性的虐待が減少するとされていることから、児童ポルノの所持が実際の児童に対する性的虐待の誘因となる確率は低いとされている。
性化学クリニック、そして訪問治療ネットワークは、刑法協議会での検討事項として扱われる架空児童ポルノに関する声明を発表した。
この声明は、報告書の付録3として複製されている。

この声明によると実写などと同等、またはほぼ同程度の写実的な描写がない架空児童ポルノの所持が、人々を児童に対する性的暴行に誘導する寄与因子となり得るという事を明らかにした学術研究はないとされている。

さらにこの声明では、実際の児童のわいせつ画像の使用と児童性的虐待の関係性についての研究は、近年になるまで広範囲で行なわれてはこなかったと結論づけている。過去の研究では、実在する児童のわいせつ画像の使用が児童性的虐待の寄与因子となり得るハイリスクグループの存在を示しているが、このハイリスクグループ外の人々にとっては、実在する児童のわいせつ画像の使用自体が児童性的虐待につながる事は少ないであろうということを示している。
この声明では、実写などと同等、またはほぼ同程度の写実的な描写のない架空児童ポルノの所持が、児童性的虐待の実行につながるとする証拠は現在のところ存在しないと結論づけている。

刑法協議会は、現在の刑法235条内で児童ポルノに関し、18歳未満の実在する児童のわいせつな写真等に加えて、18歳未満であるように見える人々を複製写真とほぼ同じような視覚的表現で再現した架空の視覚的表現を同じく禁止していると指摘している。複製写真と完全に同等とみなされるコンピューター上で生成操作されるアニメーションは、既に児童ポルノの流通所持の禁止令により禁止されている。これは、実在の発行者の存在なくコンピューターで生成された表現、もしくは児童または成人のわいせつ画像等を使用した、画像処理が行なわれる事なく作成された架空児童ポルノに適用される。

実在の児童を使った児童ポルノに極度に類似した架空児童ポルノは、児童ポルノ流通所持の禁止令により既に禁止されている。したがってこの禁止法には、第一印象からその使用目的と効果を考慮した際に、実際の児童を使用した児童ポルノに極度に類似していると考えられる架空児童ポルノは既に含まれている。

さらに刑法協議会は、実際の児童の写真的描写に酷似していない架空児童ポルノの所持が、児童性的虐待の寄与因子になり得ると示唆表明している学術研究は存在しないと指摘している。
この背景のもと、刑法協議会は実際の児童の実写的表現と酷似した描写が行なわれていないアニメ化された児童ポルノを含む既存の特定の架空児童ポルノ流通所持禁止法の延長について正当化することは困難であろうという見解を表明している。

児童ポルノの流通の禁止、そして後の所持の禁止については、1980年から一貫して児童をあらゆる性的虐待から保護するという目的がある一方で、この目的は例えば明示的に児童に対する性犯罪を空想させ、不快であるとも考えられることから、社会共通の道徳性を守るものではないともされる。

刑法協議会の見解では、社会の中のそのような倫理を保護するためだけにこの犯罪化を実現することは、非常に広範囲に及ぶ事であり、またこのような理由での物事の犯罪化は現在のデンマーク法律の下では行なわれていないとしている。例えばノルウェーとは対照的に、デンマークでは成人のみが出演する暴力的なポルノは禁止されていない。

刑法協議会はまた、アニメ化された児童ポルノが児童性犯罪の明確な誘因となると判断された場合、そのような素材の公共への配布は刑法第136条第1項により、最高刑として罰金または懲役最大4年の刑罰が課せられるであろうと指摘している。

結論として、このような背景の下、刑法協議会は現在の状態を大きく上回る数の児童ポルノアニメを禁止令に含める法律拡張を目的とする刑法第235条の変更は推奨していない。

出典:http://jm.schultzboghandel.dk/upload/microsites/jm/ebooks/bet1534/bet/helepubl.html#23.5.2 (魚拓
PDF:http://t.co/yqNT45xR

上記報告書にある「付録3」が以下の声明である。
イエールン・ベック・イエッセン臨床心理学者・外部准教授、トルキル・セーレンセン教授・医師、エリス・クリステンセン警視・臨床准教授(訪問治療ネットワークのコーディネーター)が、デンマーク法務省に提出した声明、『架空児童ポルノに関する陳述の申出について』の日本語訳。

架空児童ポルノに関する陳述の申出について

法務省は、2010年6月23日付けの性科学クリニックおよび訪問治療ネットワーク宛の手紙の中で、写実的描写の無いもの、または実写に酷似していない描写等の架空児童ポルノの所持等が人々を児童性的虐待行為へと導く可能性があるかどうかを明らかにする陳述を提出するように要求しました。

要求を受けたこれらの機関は、この手紙に対応するため同業の機関や海外の専門家にコンタクトをとりました。また、広範囲にわたる文献検索も行なわれました。加えて、性科学クリニックと訪問治療ネットワークから数人の従業員が、2010年9月1〜4日の間、IATSO(性犯罪者の治療のための国際協会)によって開催された会議に参加しました。オスロで開催されたこの会議のタイトルは"性犯罪者の治療における新たな視点:治療への挑戦としての修復的司法、法律問題、人道主義"でした。この会議で発表された関連研究はこの回答内で参照されています。

我々の知識によると、この質問に関連する科学研究は一切存在せず、これにより"児童ポルノ"と呼ばれる児童性的虐待の架空画像の消費行為のみが人々を児童性的虐待行為へと導く可能性があるとの証拠は存在しないと結論づけざるを得ません。児童性的虐待の(ノンフィクション)写真やフィルム材料の使用/誤用の調査がこの会議で発表されたため、この分野は今後の研究対象となり得ます。科学的にこの分野を調査する事への関心が高まっています。

以下、この分野における最近の研究の簡単な要約です:

キングストンら(2008) 1は、加害者と被害者の間に実際の身体的性的接触(ハンズオン)があった性犯罪で有罪となった者を検査し、過去に違法ポルノ材料の使用をしてきた性犯罪者の方がこれらを使用してこなかった者よりも過去同様の性質の犯罪の再犯率が高い事から、このグループ内での児童性的虐待画像の消費は関連危険因子であると発見しました。

セトとエケ(2005)2は、201名の児童性的虐待者達を対象にした研究に基づき、児童性的虐待画像の乱用者が実際に身体的接触のある犯行に及ぶ確率は未確認だと表明しました。彼らは研究で、前科のある人々は法に反する虐待や暴行を再度行なう確率が著しく高いという事実を発見しました。現在の有罪判決以前にも性的暴行の前科のある児童性的虐待画像の乱用者は、一般的および性的犯罪の両方で再犯を犯す可能性が高いとされます。

エンドラスら(2009)3は、スイスでの研究で、児童性的虐待画像のインターネット上での消費者は実際の身体的接触のある児童虐待を行なう大きなリスクがあるかどうかを査定しようと試みてきました。この研究では、児童性的虐待の違法画像の所持で有罪判決を受けた231名の男性を対象に調査を行いました。この研究で、11名(5%)の男性に暴力および性的虐待の両方もしくは一方の暴行行為の前科があり、2名(1%)に児童性的虐待を含む性的暴行の前科があり、8名(3%)に加害者と被害者の間に一切の身体的な性的接触の無い(ハンズオフ)性的暴行の前科があり、1名に非性的暴行の前科があったと示しました。このグループに行なわれた再犯の査定では、7名(3%)の調査対象者が暴力および性的虐待の両方もしくは一方の再犯があり、9名(4%)が実際の性的接触の無い暴行、そして2名(1%)に実際の身体的接触のある性的暴行の再犯がありました。
エンドラスらはこれに基づき、児童性的虐待画像の消費行為は、少なくとも実際の身体的接触を伴う性的暴行の前科の無かった人々にとって、これだけで彼らが実際の身体的接触を伴う性的暴行に及ぶ危険因子にはならないと結論づけました。調査対象の大半は実際の身体的接触を伴う暴力または虐待の前科はありませんでした。研究者達は、彼らが実際の身体的接触を伴う性的暴行及び虐待を行っておらず、ゆえに児童ポルノの使用の今後の見通しは明るいと推定しています。
オスロの会議で、エンドラスら3は上記の研究へのフォローアップを行いました。児童性的虐待画像の保持で有罪判決を受けた231名の男性グループは再調査され、以降6年の間にこれらの誰一人として実際の身体的接触を伴う暴行で有罪となった者はいなかった事が判明しました。これらの人々の大半は、性的またはそれ以外の犯罪歴はありませんでした。

非架空児童性的虐待画像に関する実証文献は、このような素材の消費行為が実際の身体的接触を伴う性的暴行を誘発する重大なリスクとなる可能性があるという事の明確な証拠を示していません。いくつかの研究では(例、エンドラル20094 , ベンツ 2010 5)、児童性的虐待画像の乱用者は特別なグループを構成すると予測していると発表しています。

これらの乱用者の数人が、たとえ実際の身体的接触のある暴行も犯していたとしても、これらの乱用者の大半はおそらくほぼ暴行を犯していないとの議論もあります。多くの研究で示されている通り、実際の身体的接触が発生した事件の前科者がノンフィクションの児童性的虐待画像を乱用していた場合、過去と同様の性質の犯罪を再び犯すリスクが発生します。
児童性的虐待画像の乱用または消費行為自体は、実際の身体的接触が伴う児童性的虐待の指標とはなり得ないと見られています。

前述したように、この分野の研究はここ数年で急増しています。さらに、より大規模な研究が予防目的のために行なわれる必要があります。過去の研究では、ノンフィクション児童性的虐待画像を乱用し暴行を行なう可能性のあるハイリスクグループの存在を示しているようです。これらの参照した研究によると、児童ポルノ画像の乱用が単独で性的暴行の犯行につながる事についての確信はないようです。

"実写等と同様またはほぼ同程度の写実的な描写の無い架空児童ポルノの所持が、児童性的虐待の実行につながる"という事を示す文書は現時点では存在しないようです。

出典:http://jm.schultzboghandel.dk/upload/microsites/jm/ebooks/bet1534/bet/helepubl.html#kap31
PDF:http://t.co/6O7a9wG1

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この記事は漂流地点報告管理人のayanamiさんのご協力の元、作成しました。